顔見世と紙見世

今月も”紙”のかわった用途についてご紹介をしましょう。

江戸時代には毎年10月に、俳優の契約更改が行なわれたので、11月興業では新しい一座が勢ぞろいしました。これを吉例の顔見世、または面見世と称し、歌舞伎界のもっとも重要な年中行事でした。

現在では京都の南座の12月興業が顔見世として名高く、東京歌舞伎座もまた11月を顔見世と称し、にぎにぎしく観劇ム-ドを盛り上げています。
ところで、歌舞伎の舞台は、紙と竹と木で作られてきました。それはお金をかけずに立派に見せるという、裏方の人々の工夫によるものです。たとえば、[道具方岩をちぎって鼻汁をかみ」の川柳のように、紙は岩にもなり、地蔵にもなり、雪となって降り、花と変じて散ったりします。岩や地蔵などは、みな紙製の“はりぼて”でできています。「芝居の雪は犬よりもひつじ好き」と、歌舞伎の雪が紙製であることをズバリとよんだものもあります。

いずれにしても歌舞伎の世界でも紙は大活躍、すばらしい舞台を見せてくれています。

顔見世や 顔にかかりし 紙の雪 市川右団治