酸性紙の寿命を伸ばすには

酸性紙でできた本は劣化が早く、何十年もたつと変色しぼろぼろになってしまう。貴重な書物の寿命を延ばすため、アルカリ性の薬品で酸性紙を中和する技術の研究が進められている。

パルプでできた紙はインクがにじみやすく、にじみ止めの松やにを加えなければならない。この松やにを繊維の表面に定着させるため添加する硫酸アルミニウムが、酸性化の“主犯”だ。

東京農工大の大江礼三郎教授によると、紙の劣化は、①繊維同士の結合が増えて紙が堅くなり、折り曲げる力に対して弱くなる。②セルロース分子が分解し、低分子化する………が主原因。

酸はこうした反応を促進させる働きがある。酸性紙をアルカリで中和すると、寿命は2倍~4倍に延ばすことができる。アルカリ水溶液に浸すのが最も簡単な方法だが、本をぬらすのは保存にとってマイナス。

最近は、液体のかわりにガスを用いる処理法が注目されている。大江教授の研究室は、「DEZ法」を実験中。密閉容器に本を入れ、気体のジェチル亜鉛を通す方法で、ジェチル亜鉛が紙の酸性成分と反応し、分解。反応後も化合物が紙の中に残り、持続的な効果を発揮する。

このほか、最近開発された「BPA法」は、アンモニアガスと酸化エチレンを使い二段階で処理するやり方ODEZ法より処理が簡単で、紙の繊維を強くする効果もあるという。

国内の図書館や資料館では、酸性紙対策は手つかずのところが多い。
しかし、国会図書館を中心に蔵書保護の活動が年々盛んになってきており、近い将来、中和処理に取り組む図書館も出てきそうだ。