失敗から生まれた吸い取り紙

紙にインクなどがにじんで困る話は分かるが、逆に水を吸うために役に立つ紙かある。いうまでもなく吸い取り紙である。

最近は筆記用紙とインクとの両方の研究から、乾きが早くて字がにじむことはほとんどなくなったが、それでもときには吸い取り紙が必要な場合もある。

昔、英国のパークシャー州のJ・スレードという人の経営する工場で、ある日、職人がうっかりしてサイズ剤を添加するのを忘れて紙を漉いてしまった。職人は叱られ、その紙は工場の片隅に放置された。ところがこの紙が水をよく吸うことが分かって、吸い取り紙と名づけて売り出し、工場は新製品として宣伝して大もうけしたという。

この年代は詳しくは知られないが、この経営者が宣伝のために使った作り話であるという人もいる。とにかく、吸い取り紙が機械生産されて大量に市場に出たのは1858年以後である。それまで、ヨーロッパでは乾いた砂を紙の上に振りかけて余分のインクを吸収させて除いたということであるから、吸い取り紙は大いに歓迎されて机上の必需品となった。

我が国で吸い取り紙が漉き始められたのは明治20年(1887年)ころからである。そのころの原料は木材パルプではなくボロ布(赤く染めた木綿の布)類が多く、まだ脱色の技術が十分でないため吸い取り紙は一般に薄赤色をしていた。

また日常の生活必需品であるだけに、価格との戦いがメーカー、消費者ともにあるように思える。