紙の発明・伝播

紙は、中国が誇る偉大な発明のひとつである。西暦105年すなわち我が国の建国以前、後漢和帝の元興元年に、ときの宮中用度係長官の蔡倫によって発明されたと伝えられている。蔡倫が発明した紙は、樹皮、麻、ボロ布、魚網などを原料とし、それを石臼でつき砕いて、水の媒介によって紙を漉いたと伝えられている。

この製紙術は次の通り中国から陸路をたどり、いろいろな経緯をもって西方に向かって伝播した。トルキスタン(西暦151年)、アラビア(同751年)、バクダッド(同795年)、モロッコ(10世紀)、スペイン(12世紀)、フランス(同1189年)、イタリア(1270年)、ドイツ(1336年)、スイス(1350年)、オーストリア(1370年)、ベルギー(1405年)、イギリス(1498年)、デンマーク・スウェーデン・フィンランド・ロシア・オランダには16世紀、ノルウェー・アメリカは17世紀も半ばをすぎてから、カナダにいたっては1803年であった。

さて日本にはというと、推古天皇18年すなわち西暦610年であった。聖武天皇の御代(724~729年)には、唐の文化と仏教興隆の影響を受け、美術・工芸・建築などが急速に発達を遂げ、当時ヨーロッパ人が夢にだに知らなかった製紙業も、すでに日本においては一種独特の発達を示していた。製紙業にかけては、我が国は昔も今も世界一なのである。